急性腰痛症(ぎっくり腰)

疾患別の説明

急性腰痛症の痛み(腰を反ると痛い・腰を曲げると痛い・歩くと腰が痛い)

【疾患】

日常生活で重いもの持ち上げる動作を行った時や腰を不意に捻った時などに腰痛が出現することが多い。俗にぎっくり腰と言われるもので、腰部周囲筋のスパズムが亢進しており体を動かすと痛みが増強する。

安静により2〜3日で痛みは改善され、特別な治療が無くとも90%近くは2週間以内で痛みは軽減すると言われています。

【評価と経過】

急性腰痛症は多くの方が経験される腰痛です。急に激しい腰痛が発現し、痛みにより歩行などの日常生活における動作が困難となります。

急性腰痛では2種類の症状がみられます。腰周囲筋にスパズムと明らかな炎症を伴うものと明らかな炎症が無いが腰周囲筋のスパズムが亢進しているものです。

腰周囲筋に炎症が存在するものは、年齢に関係なく改善までに1〜2ヶ月(入院される人が多い)を要する人が多いです。歩行やベッドからの起き上がり動作でも激しい痛みがあり入院時などは動けない状態です。炎症が痛みの原因であり、抗炎症薬を服用しながら動ける範囲はなるべく努力して動くという治療を病院では受けます。

これに対して明らかな炎症のない急性腰痛症は、腰深部筋の微細な損傷による反射の亢進の結果、スパズムが発生していると思われます。このスパズムを軽減することで痛み緩和が可能となります。基本的には2〜3日で痛みのピークを迎え、その後何もしなくとも腰痛は軽減していきます。

明らかな炎症を伴わない急性腰痛症は、腰周囲筋における一過性の筋スパズム亢進であり、整体・カイロ・鍼・マッサージなどで痛み軽減がある程度可能です。これらを利用する場合は1回の施術である程度の痛み軽減が出来るはずですので、何度(発症から2週間以内)も通い詰める必要はありません(刺激を入れ過ぎるのは良くない)。何度も来店をすすめる所はお金儲けのためかもしれません。ほとんどの人は何もしなくとも2週間以内に痛みは軽減するのですから。

炎症を伴う場合は必ず病院を受診してください。また、明らかな炎症が無いような場合も最初は受診して痛み止めの薬をもらってから、2〜3日様子をみて腰の違和感(スパズムによる動かしにくさ)が残る場合に民間療法を使うのはお勧めします。

急性腰痛症は一般の方が間違った知識により初期対処法を、よく間違える疾患でもありますね。

急性腰痛症を何度か起こしている慢性腰痛の方が問題で、慢性腰痛のほとんどの人は腰部筋に筋硬結があると思います。筋硬結による反射→スパズム→筋硬化と進んでいると思います。腰周囲筋の伸張性が低下しており、体を捻るような動作での筋の伸張刺激に耐えられずに、微細な損傷が繰り返し起きていると考えられます。筋硬結への刺激と合わせてスパズムの軽減が必要です。

 

【症例Aさん】 女性 40歳代。

2ヵ月前に急性腰痛症(ぎっくり腰)にて他病院入院。一ヶ月半ほどの入院後に退院となる。リハビリ目的にて外来通院(以前の非常勤先の医院)となる。

外来診察では牽引・マイクロ等の物理療法のみにて開始するが、2週間ほど経過しても痛みの軽減なく本人の強い希望もあり理学療法士による運動療法実施となる。

Aさん

「2ヵ月ほど前に自宅で重い荷物を抱えてぎっくり腰になりました。痛みが強くて2週間ほど前まで病院に入院していました。最初は痛みが強く動けなかったのですが、痛みが減って動けるようになって退院となり、こちらの病院へリハビリ目的で外来受診しました。今も何かを行うと痛くて、家事も思うように出来ないですし、子供と遊んであげられない状態で家族に悪いという気持ちです。今後は元気に動けるようになるでしょうか?」

岸川

「具体的にどのような動きで痛みがでますか?痛みの強さは毎日ほぼ変わらない感じですか?それとも日々軽減してきている感じですか?自宅では何か体を動かす運動は行われていますか?」

Aさん

「床の物を取ろうとしゃがみ込む時や立ち上がろうとする時などですかね?お風呂で洗面器(お湯が入った状態)を持つ時も痛みます。食事を作る時も長く立っていると腰が痛くなってきます。後ろを向く時も痛いですね。

入院して1週間ほどは痛くてベッドから起き上がれない状態でしたが、徐々に痛みが減ってきて動けるようになってきました。起き上がろうとすると激痛が腰に走る感じでした。痛みが減って動けるようになってからはリハビリで温めたり器械を使って運動したりしていましたが、途中からは痛みはあまり変わらない状態で続いています。こちらの病院でも温めたり、牽引したりしていますが痛みは減っていません。病院に来ている以外は特に何もしていないです。」

岸川

「動作で腰に負担が掛かる時に痛みがあるようですね?安静にしている時などは持続的な痛みは無く、どちらかというと動きの中で瞬間的に痛みが出る感じでしょうか?長時間の立位や坐位(椅子坐位なども含めて)では持続的な痛みが増してきませんか?」

Aさん

「長い時間座っていると腰はじわじわと痛みが増すので、家では横になっていることが多いですね。TVを座って見るのも辛いので横になって見ることが多いです。動くと感じる痛みは言われるように瞬間的な感じですかね?長く座っていると感じてくる持続する痛みとは違います。」

Aさんは外来受診後にリハビリで物理療法が開始となったのですが、時々質問などをされていたので何度かお話をする機会がありました。理学療法士によるリハ開始前の動きがどの様な感じだったかも合わせてAさんと一緒に腰痛対策を考えます。

Aさんのリハビリ室での行動を見てみます。リハビリ室に入り雑誌を取り牽引・マイクロ・干渉波などの物理療法を受ける時には雑誌を見ながら横になり受けられていました。

牽引は仰向けで15分程度、マイクロ・干渉波はうつ伏せでそれぞれ15分ほど両肘をついて雑誌を読みながら腰に器械をあてるという内容です。ベッドからの起き上がりは腰痛の無い患者様と比較しても特に時間が要する事も無く早い動きが出来ています。もちろん歩行も見た目には普通に出来ています。

これが、私が担当する前のAさんのリハビリ室での様子でした。痛み学でも慢性痛について記載していますが、Aさんの症状は急性腰痛で発症した後に慢性腰痛の状態を維持しているようです。Aさん自身が痛みを感じているか?感じていないか?この差が痛みの有無を決めるものです。第3者からの見た目では痛みに伴う動作(足を引きずって歩く・腰を曲げた状態で歩く)が痛みの強弱を見る指標になりがちですが、この痛みに伴う動作だけではAさんの痛みの強弱や痛みに伴う問題の大きさを冷静に評価出来るものではありません。

理学療法士がAさんの身体評価を行う際に、関節の構造や姿勢の左右バランスなどを中心に考えて痛みの評価を行い、リハビリの方針を決めてしまうと慢性腰痛を有しているAさんの様な患者様のリハビリは途中で患者様が断念して止め失敗してしまいます。

慢性痛の理学療法として陥りやすい落とし穴で、構造的な問題を修正出来れば多くの痛みは軽減すると誤解をされている理学療法士さんに多くみられます。

Aさんの体を評価すれば、肩や骨盤の高さに左右差がある、腰の筋肉の硬さに左右差がある、脊柱のS字に若干歪みがある、左右の下肢の筋力差がある、立位で前後・左右に体を倒すと方向により腰が動かしづらい差がみられる。などなど身体的な問題は沢山出てくると思います。

痛みということをもう一度考えてみましょう、ぎっくり腰による腰痛では腰深部の靭帯や筋の微細損傷が影響しています。損傷部位(筋・靭帯など)からの痛み信号は末梢神経を通り脊髄に入って、脊髄を上行していき脳に到達して・・・あっ痛い!と私たちは感じます。脳が身体的な問題や精神的な問題などを総合して痛みを如何に捉えるかがポイントで、構造的な問題があるから脳が常に痛みを捉えるわけではありません。

では身体構造の歪みや左右差をある程度修正できると何が期待できるかというと、身体の歪みや左右差が修正されると何かを持ち上げる時などにバランスのよい動きを誘発しやすくなることから腰部にかかる負担を軽減したり、一日の総運動量で考えても悪い姿勢で歩いたり立ったりしているよりも、はるかに良い姿勢では楽に無駄な力を使わずに済みそうですね。構造の修正はAさんの感じている腰痛軽減にも一部は期待できそうです!

しかし、人の感じる痛みの強弱は過去の記憶や情動が絡むものであるようです。一般的に病院受診をされてくる患者様のリハビリを通して、果たしてどのくらいの人達が構造的な修正が図れて痛みが軽減されているか?構造的な修正が完了しなくとも多くの人で痛みが軽減するのを理学療法士さんは経験されているのではないでしょうか?

私自身も今までの病院勤務で担当してきた多くの腰痛の患者様や疼元庠舎にご来店いただいている腰痛のお客様でも、こちらの理想と考える身体構造(脊柱や骨盤の歪みや左右差)へ変化出来なくとも痛みは著しく軽減できることが多いという結果を経験しています。

逆に構造が変化できても痛みが軽減しないことも多々あります。

Aさんの感じている腰痛は構造的な問題の修正を第一に取り組んでも軽減できないということです。もちろん左右差を修正するような運動による取り組みは大切ですが、構造的な変化はAさんの取り組みが継続された結果として修正される部分が見られれば、継続したことで良い結果が出たとして「儲けたな!」という補助的な視点に評価の中心から外すことが重要です。

慢性の腰痛はもっと総合的に評価して対策を考える必要がありそうです。

岸川

「ぎっくり腰をする以前には腰痛はありましたか?腰痛は治っている感じはありませ んか?この先腰痛はどのような経過で軽減していくと思いますか?また不安な部分や疑問のある部分は何ですか?」

Aさん

「以前結婚する前には仕事が忙しい時には時々腰痛を感じていました。肩こりの方が腰痛より強かったと思います。事務職で座っていることが多かったから肩や腰が時々痛かったのかな?と思っています。結婚してからは、肩こりは時々感じていますが仕事していた時と比べると全然楽ですね、腰痛は結婚してからは無いので治っていました。

今回ぎっくり腰をしてから、なかなか痛みが治らないので困っています。何をするにも腰の痛みを感じることが多いですね。入院している途中からはほとんど痛みが減らないので、このまま治らないのではないかと心配です。どうしたら治るでしょうか?どこかへ出かけたりするにも、まだ腰痛が治っていないのでぎっくり腰をまたするのではないかと心配ですね。もしぎっくり腰をすると痛くて動けないですからね。

家事をしていても腰痛があるので思うように家事が出来ません。腰痛の本も時々読んで勉強しているのですがどうしたら治るのでしょうか?薬を飲んでも痛みは治らないので、今飲んでいる薬が合っていないので別の薬に変えたほうがいいのでしょうか?」

岸川

「仕事をされていた時は肩こり・腰痛は感じていたけど、結婚後は退職されてから肩こりはかなり軽減していて腰痛は感じないようになっていたということですね。外出することに不安もあるようですが、例えばスーパーなどで買い物する時などはかなりの時間歩くと思いますが、そのような時は痛みの強さや質はどのような感じですか?またぎっくり腰を起こしそうな感覚がありますか?

薬の効果が弱いということですが、よく薬が効いていた時期はいつ頃ですか?また薬があまり効かなくなってきたのはいつ頃からですか?」

Aさん

「そうですね結婚後は腰が治っていたので、ぎっくり腰の前の状態に治ればいいなと思っています。スーパーなどに行くと長く歩くのですが、徐々に腰が重くなってくる感じです、歩いている時にすごく痛みが強く出るというのではなく腰の辺りがこわばってくる感じで、下の段の物を取ろうと腰を曲げると痛みが出やすい感じです。腰を曲げて下の物を取ろうとする時などに痛みが出るのでぎっくり腰にならないか怖いですね。買い物でスーパー内を歩くと痛みが増すということは無いですね。

薬は入院した最初の時期はあまり動けなかったのですが、薬を飲んだり座薬を使うと痛みが消えることはありませんが痛みが減り楽になる感じがありましたが、入院から2〜3週間が経ちリハビリも始まった時期からはあまり効かなくなってきたように感じます。その頃と今もあまり薬の効き方は変わらないようです。飲んでも意味がないようです。」

Aさんの言葉からはいろんな情報が得られますし多くのヒントが隠されています。Aさんと私の腰痛に対する認識を共通の知識にする必要があります。お互いの認識が共通されて初めて一緒に努力していくリハビリが可能になるのではないかと考えます。私から知っていただきと思う内容を伝え、今までのAさんの症状を冷静に見つめ直していく作業を一緒に開始します。

岸川

「腰を曲げて動くと一時的に感じる痛みと長く歩いた時に感じる痛みは質が少し違うようですね。スーパーで下の物を取る瞬間や家事動作の中で感じる痛みは瞬間的な短い痛みで、長時間の立位や歩行で増す痛みは瞬間的な痛みに比べるとジワジワと弱い痛みが持続してくる感じのようですね? 腰痛として感じている痛みは2つの違いがあるようですね? 結婚されてからは仕事を退職されているようですが、腰痛は普段全くありませんでしたか?家事を行う時などに中腰が続くと痛みがなかったでしょうか?」

Aさん

「腰痛は確かに痛みの感じ方は違いますね。家事などをしていて腰が疲れてくるとジワジワと痛みが増して突っ張っている感じが増し、その時に腰を曲げて何かをしようとすると腰の痛みが特に強い感じがします。両方合わさった時に一番痛みが強い感じもしますしぎっくり腰を起こしそうで怖い気がします。

結婚してから腰痛は普段感じないようになりましたが、お風呂掃除をする時や掃除機を使う時など中腰が続くと腰痛が少しありましたが・・・中腰をすると皆さん腰痛があるものではないのでしょうか?お風呂掃除や掃除機を使うときは疲れから少し腰痛が出るのが当たり前と思っていたので、仕事をしている時に感じていた腰痛とは違うのでちょっとした痛みは腰痛とは思っていませんでした。」

岸川

「時々生活の中で痛みを感じられていたということが、よくよく考えると出てきますね。痛みは脳が捉えているか、捉えていないかという問題です。Aさんが結婚されて仕事を退職されてからは身体的・精神的なストレスが軽減されているのかもしれませんね。

このため腰からの情報を痛みとして脳が捉えていないので、仕事をされている時に比べると痛みをあまり感じていなかったのでしょう。腰の状態が治っていたのではなく、痛みを感じていない状態だったと考えるのが自然です。今回のぎっくり腰後に感じている腰痛では、中腰や長距離歩行で感じる痛みは強さの差はあるでしょうが、以前から感じていた腰痛と似ていませんか?」

Aさん

「そう言えば似ていますね。ぎっくり腰後は以前より痛みが強く感じますが、ジワジワと増してくる感覚は同じですね!そっか治っていたのではなく感じていなかったのですね。」

岸川

「腰を曲げて床の物を取る時やしゃがみ込む動作や体を捻る動作で感じる瞬間的な痛みは、腰の筋肉や靭帯へ瞬間的に強い負荷もしくは引き伸ばされることで生じると思います。この痛みを軽減していくには腰の筋肉や靭帯などの伸張性が欲しいですね。Aさんの日々の取り組みによるストレッチや運動などを継続していただかないと安定的な変化を出せない部分です。長距離を歩いた時や中腰の続いた時に感じるジワジワと増してくる痛みは、腰周囲筋の持久力不足が影響しています。Aさんの腰周囲筋はぎっくり腰による影響で硬くなりやすい状態ですから同じ姿勢などで同じ部位の筋肉を使い続けると、問題の筋肉は持続的に収縮しており毛細血管の圧迫により酸素不足が生じてきます。このため痛みが増してくると思いますよ。例えば腹筋運動を繰り返していると疲労と共に腹筋が痛くなってきますよね?腹筋運動で感じる痛みは腹筋の酸素不足が過度に強い状態です。Aさんの日常生活で行う持続する姿勢や持続する動作では、過剰な力は使用していないので痛みがジワジワと増してくると思います。腹筋運動を止めると痛みがスーと無くなりますよね?Aさんも中腰姿勢を止めたとき、歩行を止めて椅子に座り休憩した時?スーと腰の痛みが楽になると思います。

同じですね。
持久力強化はウォーキングなどを継続していかないとなかなか強化できないもので、Aさんの努力が一番重要な腰痛の治療と言えるでしょうね。」

Aさん

「普段から痛みがあるし、運動すると痛みも増すのでなかなか運動をしないですね。運動が大切だと思っているのですが?いろいろリハビリで運動を教えていただきながらやってみようと思います。」

 多くの話をすることで理学療法士と患者さんは情報交換を行い、腰痛をどのように理解するか認識を共通させなくてはいけません。共通認識が出来ないと必ず誤解を生じて先々リハビリを継続するなかで問題が発生してしまいます。

Aさんと私のやり取りからは、Aさんの腰痛に対する認識の一部が伺えます。慢性腰痛のリハビリを行っていくため、またAさんが腰痛を正しく認識していただき今後の生活で楽に過ごせるための取り組みには何が必要かを理解していただくためには、「何が必要で大切か?」をテーマにリハビリを継続していく中で初期の段階から繰り返し話し合っていきました。

上記の会話の中だけでもいくつかのポイントが出てきます。

・ 前の病院でもリハビリを行っていたが痛みが軽減されなかった
・ 退院後は運動をしていないし、家事もあまり行っていない
・ リハビリ室でマイクロなどの器械を腰に当てる時に長時間のうつ伏せが出来ている。
・ 以前感じていた腰痛は退職後に治っていたと思っていた
・ 鎮痛剤が効かないため薬が合っていないと考えている(今の薬では効果がない)
・ 長い時間の外出ではぎっくり腰の再発があり不安
・ 今感じている腰痛が治らないのでは?という不安

Aさんは今回ぎっくり腰になり入院されていましたが、仕事をされていた頃は慢性腰痛があり、腰周囲の筋硬化があったと予想されます。腰部だけでなく股関節の動きも硬いことから長い年月を通じて腰深部の筋・靭帯は硬化してきているのでしょう。この先もリハビリを通して今感じている腰痛が著しく軽減でき日常生活で感じなくなったとしても、仕事を再開したり強いストレスが続くようなことがあれば、また痛みを感じる日々が出る可能性はあります。普段より自分で体調を整えて痛みを感じない状態にコントロールすることが重要であり、基本的にぎっくり腰を起こした後の腰深部の筋肉や靭帯などの硬化は完全に改善することは無いことをAさん自身が知る必要があります。ぎっくり腰後の筋硬化の完全な根本治癒はありえません。

中腰姿勢が続くと痛みが増してきますがこれは改善が一番難しい問題です。安定的に中腰や長距離歩行などでの腰痛を軽減するためには、腰部周囲筋の持久力が欲しいところです。マッサージ・カイロ・鍼などで筋肉を一時的に緩めて、腰の楽な感覚と痛み軽減を一時的に出しても、その時だけの痛み軽減で終わってしまいます。本当にAさんが安定的に腰痛を軽減させたいと望まれるならば、ウォーキングなどの運動を継続していかないと安定できない部分です。動作時の一瞬感じる痛みは伸張性が影響しているので、ストレッチや体操などの運動を継続し、今動かせる関節の範囲を出来るだけ楽に動かせるように向上させることが大切です。Aさんのように硬い方はどんどんストレッチをしたからといってすごく柔らかくはなりません。今動かせている範囲の関節を楽に動かせる、言い方を変えれば腰を曲げたり伸ばしたりなどの動作範囲が楽に行えている感覚を向上出来ればという感覚で望むことが大切です。

安定的な痛み軽減に重要な柔軟性や伸張性・持久力というポイントは、間違いなく自己努力でしか獲得出来ないものです。

Aさんは物理療法(マイクロ・干渉波)を受ける時は、雑誌を見るために両肘をついてうつ伏せの姿勢を取れています。この姿勢を取れるということは本人が訴えている以上に腰痛の問題はすでに小さな痛みであることが想像できます。ある程度強い慢性腰痛の方では両肘をついた状態でのうつ伏せの姿勢は長時間取れません。うつ伏せは腰を反らせるので腰痛を増強させます。うつ伏せ中は痛みがさほど出ない人でも、うつ伏せ姿勢を止めて歩き始めると腰の重い感じが増して歩きづらい感覚や動きのぎこちなさが歩行初めに見られます。Aさんはこれらの身体的症状が全くありませんでした。

何が考えられるかというと、Aさんのぎっくり腰を起こした初期時の痛みに対する自己評価と現在の痛みに対する自己評価での悩みの大きさが同じレベルで止まっており、現在の悩みの内容は「痛み(痛みの強弱に関係なく)=腰が悪い」の状態で止まっていると考えられます。入院当初は痛みでうつ伏せや寝返りが出来なかったと思います。痛みの感じ方は確実に軽減しているのですがAさんの中でその軽減が冷静に認識されていません。現在の腰痛で困っているというAさんの考えは、ぎっくり腰を起こしたばかりの頃の「痛みが強くて」「痛みが弱くて」での比較では無く、動作での「痛みがあるか」「痛みが無いか」の視点で悩んでいると思います。

ぎっくり腰を経験し強い痛みを経験した人でよく見られるのですが、痛みが激しい時期を過ぎてある程度軽減した状態が続くと、ぎっくり腰前の痛みの無かった時と現在の痛みのある状態を比較して「腰が悪い」「腰が悪くない」の判別をされます。現在は痛みが小さくても痛みがあると「腰が悪いから出来ないことが多い」と悩んでいる人が多いです。

最初は「痛みが強くて動けない」という問題での悩みから、段階的に痛みは軽減していても「こう動くと痛みが出る」という痛みの出る動作に悩み、動作による痛みの強弱に関係なく痛みがある動作に注意が向き過ぎて痛み動作探しに執着してしまうようです。この様な考え方が中心になり動作で痛みがあると「こう動くと痛いしまだ治らない」という判断になってしまいます。すると痛みの強弱や動作が容易になった部分は無視され、痛みが完全に無くなるまでをゴールとし、痛みの悩みに執着して完全な痛み改善を早急に強く求めるようになってしまうようです。

痛みの段階的な軽減が日々進んでいるのを冷静に自己評価できていない状態です。Aさんは両肘をつき雑誌を見ながらうつ伏せを苦痛なく行えています。この動作は腰痛のある程度強い人では腰痛が増して出来ない姿勢です。Aさんの腰痛に対する認識が1か0の関係(痛みが有るか無いか)になっていることが見えてきます。

Aさんはリハビリ室内では歩いたり、ベッドから起き上がる・立ち上がるという動作は腰痛の無い人と全く違いが無いほどスムーズに行えています。この様に動きが出来ているのですが、ベッドに仰向けになっていただき、私が検査のために関節を動かしたり軽いストレッチなどを行ったりすると精神的な抑制が入り動かしている腰・足の力が抜け切れません。また、自分で体を動かす動作(腰を捻る)を行ってもらうと慎重に弱々しく動作を行います。

腰に対する恐怖・不安の強さが見られます。またぎっくり腰をするのでは?という不安があるようで「体を捻ると痛みがありますね、治っていませんね」という訴えが最初は多くありました。

この理学療法による検査の動作では大きく動かすと腰の痛みが軽く誘発されますが、痛みの無い動かし始めからAさんの身体に緊張が高まります。普段行っている動作では痛みの無い状態で繰り返されている動作なので自信がついており恐怖が少ないのですが、いざ理学療法士に腰を触られたり、ベッド上に横になり腰に注意が向いている状態で自分で体を動かしてみるように指示すると、普段と違い動きの予測できない動作なので恐怖・不安が強くみられます。Aさん自身もこの程度動かしてもぎっくり腰に再度なることはないと理解されているのですが、安心して簡単に出来そうな動きでも自信を持って行えていないようです。

この普段の動き(意識していない時の歩行や立ち上がり動作など)とベッド上での動きの矛盾を本人が冷静に見つめるようになるには、腰痛の知識を身につけていかないと改善が難しい部分です。ベッドに横になっているAさんは、まな板の上の鯉とでも表現したら理解しやすいでしょうか?

Aさんの外出での不安もこれが影響しており、今の運動量を越えるような歩行量やぎっくり腰の後に行動範囲を拡大できていない範囲での行動は不安を増強させると予想されます。ぎっくり腰前によく行って慣れた場所でも、ぎっくり腰後に何度も行ってみて問題ないことが自覚できれば安心できます。すると初めて自信がついて不安でなくなる場所となるでしょう。長距離歩行でも長時間の運転でもそれを行って問題がないと自信がついてくるものです。少しずつ行動範囲を広げていくことがポイントになると思います。Aさん自身が行動範囲の拡大を意識して行動し、また運動を継続して体力向上を継続していくことが重要です。自身の努力により行動範囲が拡大していくと、「痛いから家事も出来ない」「腰痛は今後も治らないのでは?」という悩みも軽減してきますし、小さな痛みに過剰に執着しない様になっていけます。

薬剤は急性痛の炎症が激しい時期には効果を示しますが、ぎっくり腰後2週間も経てば患部の炎症は大きく改善しているので効果は弱くなります。また、急性期であっても消炎鎮痛剤で痛みを感じ難いように抑えますが、消炎鎮痛剤が患部を修復しているのではありません。あくまでも炎症を抑えて痛み物質産生を抑制しており、炎症を抑えるということは痛みを抑制するメリットと引き換えに患部の治り(組織修復)を遅らせるデメリットを生じてしまうことを理解することは大切です。

消炎鎮痛剤で痛みが一時的に軽減できれば、一時的に痛みが抑えられている間はどんどん動いていくというのがぎっくり腰の初期においての鉄則です。薬剤が効果を示している期間に例えば痛みが少なくてすむ立ち上り方を練習する、歩き方を練習するなど(函館の魔女参照)。消炎鎮痛剤を飲んで痛みが引くのを待つ、痛みがある程度軽減してから動くという認識を修正して、早期より動いていくことが重要です。

痛みを恐れただ安静にして痛み軽減を待つという姿勢は必ず患者として受身の姿勢が出来上がります。すると慢性化して長期に痛み持続が及ぶと「なぜいつまでも痛みが取れないのか?」と常に悩んでしまいます。こうなるとすぐに痛みが軽減できないものは信じられずに、長期的な目標での取り組みが困難に陥ります。「痛みがあるから何も出来ない」と痛み軽減に対して焦りから結果をすぐに求める考え方に支配されてしまうでしょう。

初期の段階では筋肉痛が出るリハビリや自分での運動などは特に実施されず、ブロック注射や薬剤への依存が強まってしまいます。この落とし穴にはまり込んだ人は「ぎっくり腰の時はものすごく痛みが強かった、動けなかった」というイメージが強く残り、痛みが軽減してきても「痛いから出来ません」「この痛みは他人には分かりません」という訴えをいつまでも続ける人が多いですね。被害者的な発言や攻撃的な発言が非常に目立つ様になり家族や医療関係者など周囲の人からは敬遠される様になります。だから早期より正しい知識を患者さん自身が身につけ間違った依存的な考えに支配されないように取り組むことが大切なのです。

Aさんは2ヵ月が経過しているのにも関わらず、被害者的な発言も一部目立ち薬剤への依存が見られるのも問題です。長期的に飲んでいてその効果がすでに無いのを自覚していても、別の薬剤が合うのでは?という考えが存在しています。薬剤の理解が正しくできていないし、どこかでぎっくり腰(痛みの原因部位)を薬で治すという認識があるようです。この間違った認識を捨てきれない限りAさんには依存的な考えの部分が強いと理解できます。依存的なままでは理学療法技術によるサポートや薬をいくら違うものに変えても、日々の安定的な痛み軽減には向かわないでしょう。能動性があって薬剤や理学療法技術の内容を検討していくのとは全く痛みに対する捉え方が違います。これは長く慢性痛に苦しんでいらっしゃる人で今は冷静に痛みと向かい合っている人ならわかっていただける表現だと思うのですが?患者さん自身が気づくことで初めて変われるのだろうと私は思っています。

Aさんには上記の内容のお話を初回より説明しながら今後何をするべきか話し合いました。上記の内容を口で説明したから患者さんが問題点を理解して、納得して、行動へ移せるかと言えばそれは難しいと思います。それが重要であり大切な事だと納得し行動へ移していただけるサポートをするのが理学療法士の技術だと私は思います。これをサポートすることは理学療法士にも本当に難しいことであり、患者さん自身がそう思えるようになることも非常に難しいことなのです。

あくまでも主役は患者さん自身であり、患者さん自身の継続される努力が一番の治療です。理学療法士として腰痛を緩和させるためにマッサージをしたり関節を動かす技術を使ったり運動を行ったり、いろんな専門技術による痛み緩和への取り組みは行いますが、あくまでも一時的な痛み緩和でしかありません。それだけでは駄目だという認識を理学療法士と患者がしっかり確信できているかが大切です。この本質的な確信を理学療法士と患者のどちらか一方でも正しく出来ていないと、理学療法士と患者の関係には依存が成立してしまいます。

Aさんの様にぎっくり腰後に慢性腰痛が続いている患者さんには構造的な問題以外にもいろんな問題が含まれており痛みを安定的に軽減できていない原因は多く存在しています。

何が本当に慢性腰痛に影響しているか?患者さんの誤解や努力の方向性に問題がないか?理学療法士のリハビリ内容が依存を強めていないのか?など総合的視点による評価が必要とされます。患者さんが本当に理解し納得し行動に移せて始めて患者さんの認識が良い方向に向いたといえるでしょう。
理解するだけなら話を聞けば分かるのですが、なかなか患者さんの自主的な行動として患者さん自身による多くの取り組みが表れない場合は、まだ本心から納得されていないのでしょう。

Aさんとはリハビリの度にいろんなお話をしました。初期の頃はなかなか行動として運動などが実施されませんでしたが、徐々にリハビリ室内での自主的な運動や自宅での取り組みが見られるようになりました。約3ヶ月で経過が良くリハビリは終了となりました。

特別なリハビリは必要ないと思います。患者さん自身が本心で納得し行動に移せるか、それが良い結果に繋がるかのポイントだと私は考えています。理学療法士側の技術が大切という誤解を与えないためにも、今回は何をリハビリとして行ったかは詳しく記載しませんでした。

理学療法士の指示により行う「させられる運動」から患者さん自身の気持ちが前面に出ている「する運動」へ、本心から納得し能動性(自主性とイメージしてください)が確立できた時に初めて驚くような日々の安定的な痛み軽減効果が見られるようです。

Aさんはリハビリを開始された頃に比べると、自分の腰痛症状では薬や民間療法を受ける(誰かに治してもらうという発想)ことが一番大切なのではなく、徒手技術による痛み緩和を痛みコントロールのための補助手段と認識され、自分の日々の取り組みが安定的な体調管理に繋がり最も大切なことだと実感していただけたのではないかと思います。

※ ぎっくり腰後に重度の慢性腰痛に苦しんでいらっしゃる患者様もいらっしゃいます。理学療法や患者様の自主性だけでは軽減できない痛みも存在します。新人の理学療法士さんは、この点はしっかり専門家として認識し間違ったサポートをしないように気をつける必要があります。理学療法士が間違って患者様を無駄な努力を強要したり徒手療法に依存させ追い込んでいかないように、的確なサポートが出来るように可能性と限界をきちんと見極めていく努力を続けることが大切です。

また、患者さん自身は限界を自分で作らないでいただきたいと願います。多くの慢性腰痛の方にお会いしてきましたが、依存的であるがゆえに可能性があるのに継続的な取り組みが行えずに痛みが軽減していくことが困難な状況に追い込まれている方々が非常に多いようです。ぜひ信頼できる医師や理学療法士を探してください。能動性が出来ている中でのドクターショッピングや薬の試行錯誤は痛み緩和には必要なことだと私は思います。信頼できるスタッフと歩んでいくからこそ苦しいことも継続して頑張れると私は思います。

 

【慢性痛対策】

明らかな炎症を伴う急性腰痛症は薬剤が主役となりますので、医療機関受診を最初に行ってください。入院となれば痛みも当然強いと思いますが、早期より痛みを我慢できる範囲は積極的に動くよう心がけることが重要です。

明らかな炎症が無い急性腰痛症を繰り返している人は腰部周囲筋の筋硬化の激しい方が多くみられます。もちろん股関節も可動域制限がみられます。

腰部周囲筋の伸張性を改善していくことが大切ですが、腰の動きを中心に意識し過ぎる運動をしていると、痛みが増強しやすいので体幹(脊柱周囲の遅筋)を中心とした運動から開始するのが良い結果がでやすいようです。また遅筋である多裂筋や回旋筋にある筋硬結への刺激も重要ですが、腰部は腱組織も多く筋肉の層も厚いため筋硬結の安定には時間を要します。

ぎっくり腰後に日々の痛みが軽減しているが、時々ぎっくり腰を起こしやすくなっている人は多いようです。この場合は腰深部の筋・靭帯の硬化が確実に残っていますし、運動を無理に頑張りすぎても硬化を進めてしまいます。腰周囲筋の弛緩を専門家に調整してもらいながら、運動を継続していただきたいと思います。

ウォーキングやストレッチなどいろんな取り組みがあってよいと思います。みなさん自身が楽しめる内容の運動による取り組みでないといけません。運動を継続することが義務化してストレスを感じながら続けても意味は無いでしょう。いやいや続けている運動はそれがストレスとなり腰痛を強く感じさせる原因にもなります。

特別なリハビリは必要ないと思います。患者さん自身が本心で納得し行動に移せるか、それが良い結果に繋がるかのポイントだと私は考えています。理学療法士の指示により行う「させられる運動」から患者さん自身の気持ちが前面に出ている「する運動」へ、本心から納得し能動性(自主性とイメージしてください)が確立できた時に初めて驚くような日々の安定的な痛み軽減効果が見られるようです。

ぎっくり腰後に慢性化する方の多くはどこか完璧主義の傾向が強かったり、怖がりな方(神経質)が多いようです。つい頑張りすぎる人は生活の中で仕事や人間関係などに肩の力を抜いて接していく努力(サボる勇気や楽天的な思考)が必要でしょうし、怖がりな方は何を怖がっているのか、その理由はどういう知識が影響しているのか見つめ直すことは重要でしょう。自分が腰痛と関連していると思いもよらない部分の精神的ストレスが原因で腰痛を増強させていることもありますから。

皆さんの今持たれている知識を基礎にした考え方で「薬を重要と考える」「徒手療法や鍼などを重要と考える」というやり方で依存的な考えでいろいろ試してみてもいいと思います。それで結果が出なければ、だまされたと思って一度は自分が主役で頑張ってみてはどうでしょうか?そう思える状況にならないと人間なかなか素直に考えを変えることも出来ませんし、大切なことに気づくことも出来ないと思います。

日々の安定した痛み軽減を可能にするかしないかは、皆さんの考え方と取り組み方に掛かっているようです。

 


痛み緩和教室
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レジデンス春日1F

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