むち打ち損傷(頚椎捻挫)

疾患別の説明

頚椎捻挫(むち打ち後の長引く首の痛み・事故後の首の痛み)

【疾患】

交通事故に多い疾患です。追突の衝撃で頚椎が過度に前後・左右などに伸展・屈曲などをされることにより発症します。脊柱の骨や靭帯まで損傷することは稀で、多くは筋肉の損傷にとどまります。

痛みは頚部から肩にかけて安静時も感じることが多く、首を動かすことで痛みがさらに増強します。その他にめまいや関連痛として頭痛がしたり、痛みによる不眠なども多いようです。痛みの強い場合(靭帯などの損傷を伴う)は頚椎カラーによる固定が行われることは多いです。

【評価と経過】

むち打ち損傷の場合は頚椎から胸椎の筋線維損傷を伴うことが多いのですが、深部の小さな筋肉を損傷している場合などは、体表面には明らかな炎症がみられないために検査上は異常なしと診断が出ることも多いようです。

頚部・肩甲骨周囲筋に明らかな炎症を生じている方は痛みが強く、入院が必要になるケースも多いです。

この様な急性期の場合は筋損傷に伴い損傷部に炎症が起きて痛みによる反射が亢進し筋スパズムが存在します。急性期の場合はこの筋スパズムを改善しようとマッサージなどをすると痛みが増強しますし、マッサージの圧力が適切でないと筋線維をさらに損傷させる結果ともなります。組織損傷部は筋緊張が低下している状態であり、この筋緊張低下の一部分だけに適切な刺激を入れて筋緊張を改善すると痛み症状の軽減が図れる場合があります。基本的には温熱と可能な範囲で早期から首を動かしておくということが大切です。

筋肉に明らかな炎症が見られる方はその炎症の改善には1月ほどを要すると思いますので、翌日に痛みが増強しない範囲で負荷を使わない運動は必ず実践していただきたいと思います。痛みが改善した時に廃用性の筋萎縮や関節可動域の低下が強いと、その改善にはかなりの努力と時間を要してしまいます。

上記の様な急性期は炎症がある以上は炎症物質が痛みの原因ですから、これを民間療法で改善することは不可能であり、急性期の状態でカイロや整体は禁忌です。

逆に明らかな炎症が無いが痛みを感じている方も多くいらっしゃいます。事故当日は「なんともなかった」とか「ちょっと気になる程度で大した痛みではなかった」などと訴える方が多いですね。事故より1〜2週間が経過していく中で、日を追うごとに痛みが増強して病院受診されるという経過のようですね。

この様に1〜2週間の時間経過に伴う痛み増強には、頚部・肩甲骨周囲筋の深部の小さな損傷が基点となっています。小さな損傷による痛みで反射が亢進し、筋スパズムを起こした結果の痛み増強が多いようです。炎症ではなくスパズムが痛みの原因です。

この場合は筋スパズムの軽減が第一になってきますが、小さい損傷(圧迫痛のある場所)が筋肉内には存在していますから、一旦スパズムを軽減しても日常生活を送る以上は精神的・身体的疲労が原因となり反射は亢進しやすい状況です。一旦軽減された痛みは再発されやすい状況であることには違いありません。痛みは突然消えることはなく、日々ゆっくりと少しずつ軽減していくという経過が多くみられます。

初期はスパズム軽減に重点をおき、その後は筋肉の耐久性向上を中心とした運動に重点をおいたサポートに転換していくことが大切です。

【症例Aさん】 女性 30歳代前半

交通事故にて整形外科の外来受診、むちうち損傷の診断あり検査結果に異常は無く痛み止め(飲み薬)と湿布が処方されしばらく様子をみるよう指示あり。
徐々に痛みが増強し、安静時の持続痛と動作時の痛み・不眠・倦怠感が強く1週間後より入院となる。入院後より理学療法開始。

理学療法が開始の時点ではかなりの頚部痛と頭痛を訴えられていました。
「事故で後方より追突されました、追突された時のことはあまりよく覚えていません。事故の日はあまり痛みも無く「軽くすんでよかった」と思っていましたが、日に日に痛みが強くなってきて仕事も出来なくなり眠れなくなりました。

食欲は無いですし、常に首の痛みが気になります。1日中痛いので気が変になりそうです。「検査では異常が無いからそのうち痛みは取れますよ」と説明されましたが、痛みは減らないし薬も効かないのに本当に大丈夫なのでしょうか?湿布もたくさん使うからすぐに無くなります。」

交通事故2週間後からの理学療法開始です。Aさんはこの2週間の間は頚部の痛みの苦しみと不眠・倦怠感・仕事を休む不安など多くのものを抱えて苦しんでいらっしゃったと思います。

身体的には頚椎〜胸椎周囲筋のスパズムはそれほど強くありませんが、軽い触・圧迫刺激に対しても本人は痛みが鋭く感じられました。痛みを感じる皮膚・筋(患部)などの明らかな損傷や炎症による発赤・発熱もみられない状態です。

初期評価としては、検査結果で異常が無く痛みを感じている患部にも炎症症状がハッキリしなので、検査として明らかに異常は出にくい靭帯や深部の小さな筋の微細損傷が痛みの原因として影響しているのではないかとも考えられました。

理学療法を実施するために与えられた身体についての情報は、炎症がハッキリしない患部の痛み閾値低下という事実だけです。

Aさんやむちうち損傷の患者様に対して、最初に大切な説明としてお伝えしている内容は基本的には以下の5点です。

  1. 検査では明らかな異常がみられないが、現在の診断技術では発見できないだけで事故後に発症しているのですから、必ず身体の問題があり痛みを誘発しているでしょう。
    医師からは検査で異常が無いと言われるが自分は痛みが強いという事実、原因のハッキリしない痛みは不安と恐怖をあおり、痛みをさらに強くしているかもしれません。

  2. 痛みは怪我の大きさだけで痛みの強弱が決まるのでは無く、ストレスの影響で感じ方はとても大きくなるものです。事故にあったという事実、事故車の心配・仕事の心配・収入の心配・家庭の心配・示談が進まない、などいろんなストレスが発生しているため痛みを増強させる要因をすでに抱えている状態で、ストレスによる痛みを強く感じることは当然ではないでしょうか?私が同じ立場でもやはり不安になるでしょう。

  3. むちうちの痛み軽減は時間を要します。ある日突然に痛みが改善するということは無く、徐々に痛みが軽減していくという経過をたどります。1ヶ月単位で振り返ると先月より「普段が楽になったな」「こういうことも出来るようになったな」というふうに徐々に痛みや動作の変化がみられてくるという経過です。長期戦は当たり前なので6ヶ月くらいをめどにどっしり構えてください。どんどん痛みが強くなり動けなくなるということはまずありません。

  4. 初期の理学療法としては、患部の痛みを感じやすい部位に触・圧迫刺激を行っていき刺激に対する耐久性を向上させて行きます。初回のリハビリ後は患部を触ることで夜間などに痛みや頭痛が増すことが多々みられますが、数回続けていくことでリハビリ後の痛みの出方も軽減し・触られている時の痛みも軽減します。

    患部の刺激に対する耐久性の向上が見られます。触・圧迫刺激に耐えられるようになると早期に運動を導入していきます。「薬を飲んで安静にしていると痛みが治り、動けるようになり仕事も出来るという考え方ではなく、運動などを実施して自分で痛みに強い身体を作っていくという認識をもつように努力しましょう。

    Aさんのその努力のためには理学療法士として私の経験がお役に立てるでしょうしお手伝いさせてください。理学療法が痛みを治すのではなく、痛みに耐える強い身体作りをお手伝いする治療です。

  5. 患部が触・圧迫刺激に対して強くなると、軽い運動を導入できます。軽い運動後にも痛みが出ない状態に安定してくると、患部に負荷をかける量を増強できます。ここまで行けば外来で大丈夫ですし、仕事にも復帰できます。

    理学療法室で患部に刺激を入れる時期→軽い運動導入→負荷量の増大→退院による外来へ移行→仕事復帰と進むのですが、この全てのステップアップ時期では生活内での活動量の増加があり理学療法内容でも負荷量や運動量の増加が必要とされます。このため、ステップアップのたびに疲労性による痛み増強がみられるでしょう。

    特に退院後しばらくの間は自宅での生活を開始するだけでも相当な負担ですし、仕事復帰直後は普段の痛みがほとんど改善していた人でもかなりきつくて痛みが増すと言われる方が多いです。

    むちうちの痛みは身体的な耐久性の向上により仕事などを実施しても、強く出ないようになるまでが身体作りですので、この点からも痛みが早期に軽減できる場合でも6ヶ月くらいは適切な運動を継続していくことは大切なようです。

 

Aさんには初期の段階より上記の内容を説明しながら、具体的な日常生活での痛みの増減する日などは何が要因となっているか出来るだけ振り返り考えるようにしました。

Aさんの不安や恐怖を改善することは私には出来ませんし、入院によるいろんな支障が発生していることへの悩みにも具体的に対処できません。出来るのは話を聞くことくらいです。

理学療法として経過時期や日による痛みの増減に注意しながら、どのような運動方法・運動量を導入するかに注意を払いました。

私が受け持ったむちうち損傷の患者さんの中でも、Aさんは痛みが非常に強く苦しまれている方でしたが、私の説明にも早くから理解を示していただき痛みに対して敏感に恐れないように自分に言い聞かせながら、少しずつ入院生活の中でも痛みがあっても出来ることにチャレンジされました。

理学療法開始から3週間ほど経つと頚部の痛みはだいぶ軽減して運動も開始しましたが、運動導入直後のあたりでは「運動中や直後はどうも無かったのですが、夜は痛みが増しました。痛みが気になって久しぶりにあまり眠れなかったですね、あの程度動いたくらいで疲れて痛みが増すのですから、まだまだ鍛えていかないと。がんばらないといけませんね」という訴えがありました。

毎日痛みが続いているAさんが自分から改善のために先を見て努力されている(気持ちを奮い立たせる)ことに驚きました。

多くの方が運動開始直後は「運動した夜に痛みが増しました。運動をして大丈夫なのでしょうか?本当に運動をしないといけないのでしょうか?」という反応をされます。確かに普段の痛みが軽減してきて楽になったのに、運動して痛みが増せば疑問に思いますし不安になるでしょう。

むちうち損傷の場合はただただ受身で安静にしていて痛みが軽減するのを待つということも一つの方法であり、その方法で改善できる方もいらっしゃいます。しかし、私の経験(他の病院から回ってくる完全な慢性痛に転じている患者)では安静を中心とした守りの理学療法を経過して痛みの軽減が思うように図れなく長期化した場合に、本当の問題が発生すると感じています。

むちうち損傷後の痛みの強弱に関係なく、患者様が痛みに対する受身の姿勢(本人の痛みについての認知)が出来上がると確実に周りの専門家や家族や知人からの意見が届かなくなり、ドクターショッピングになってしまいます。

「誰か痛みを治してください」という方向に意識が向いてしまうことは、本人は痛みに執着してしまい意識が痛みから切り離せないという状態です。もちろんこの時期にはうつ症状もみられますし、「私の痛みは誰も治してくれない、薬を飲んでも・運動しても痛みは取れないじゃない」と結果も急ぐようになり、全てが信用できなくなるでしょう。

むちうち損傷では、このような重度の慢性痛に転化しないよう注意する必要がありますし、慢性痛に転化させてしまわないよう早期より患者様自身の意識を能動的に変化できるように努力していくサポートを大切に取り組んでいます。

Aさんは持続的に痛みを感じているのですが、運動なども積極的に取り組んでいただきました。早期より「自分で痛みに負けない体を作る!」という認識で頑張られていたので、痛みはあるが動けることを身体で覚えていかれたことが、さらに自信へとつながっているようでした。

入院時は重度の痛みでしたが、1ヵ月半で退院し入院から約2ヶ月後には仕事復帰ができました。もちろん仕事復帰後しばらくは痛みが増強し「あ〜もうだめだ疲れるし・痛いし」と言いながら疲労困憊のようでした。しかし、もともとガッツあるAさんは「もっともっと疲れない痛みの出ないように鍛えていかないと!」と言われ、前向きの意識を強く持ち続けることが出来ていることも大きいようでした。

この時期は理学療法士としては運動による強化よりも、疲労に対するリラクゼーションを中心に行い身体・精神面の疲労軽減に努めました。

仕事復帰後も1ヵ月ほど継続すると疲れや痛みの増す日は軽減してきますので、運動量を再度増加させていきました。

事故より約5ヶ月後でも持続的な軽い痛みも続いてはいます。非常に疲れた時や天気の悪い日に痛みが増すということですが自制内の痛みであり、自身でコントロールできていることから、Aさんとも話し合い理学療法を完全に終了することになりました。

Aさんは仕事で疲れてやりたくないけど、今後もウォーキングなど可能な範囲で運動を続けると言われていました。頭が下がります。

※むちうち損傷による慢性痛への移行は非常に多くみられます。病院でも疼元庠舎でもいくつも病院を回ってきた患者様によくお会いします。苦しい時期に検査で異常がハッキリしないために「気のせいですよ、湿布でも張っておけば直りますよ」という対応を受けて、痛みが持続して何度か訴えていると「あなたの痛みは精神的な問題によるものでしょう」と言われて精神科や心療内科を紹介されたなどの経過をたどっていらっしゃる方が多いようです。

「前の病院のリハビリでは電気で温めたり・牽引したりはしましたが痛みは変わりませんでした。理学療法士の人にリハビリ室にある機械を使って運動するように言われて行いましたが疲れが強く痛みが強くなるばかりでした。整体・鍼・カイロに行ってこの治療法を何回行えば根本から治ると言われて通ったのですがその時だけ少し楽になる程度でした。

・・・・・・そうですよね。

今までに関わっていた人間の中に誰一人真面目に慢性痛と取り組んでいる専門家が居なかったのですから慢性痛が軽減できないのは当然の結果です。
慢性痛軽減の本質は患者さん自身の意識転換にあり、本心から「痛みに強い身体を作っていこう」と思い行動に移せるようになることが一番の治療ではないかと思います。薬・リハビリの物療機器・運動・整体や鍼などの施術は補助であり主役ではないのです。

私の臨床経験からは患者様と専門家が一緒に努力していった結果として希望が見えてきた時に初めて徐々に痛みの変化が期待できるようです。

慢性痛に移行した場合は痛みの苦しみは本人でないと分かりません。痛いから動けないのも当然です。でも重度の慢性痛とされる人達の中にもチャレンジすることで可能性が見出せそうな方々がたくさんいます。

長い道のりだからこそ信頼できるスタッフと共に自身の意識を奮い立たせてチャレンジしてみてください。  

【慢性痛対策】

むちうち損傷により、背中(胸椎レベル)の筋肉に炎症が明らかなものは、筋線維の損傷により筋肉内に筋緊張が低下(筋軟化)している一部分が存在しています。

この部分へ適切な刺激をいれて筋緊張を上げる処置を行うことで痛みの軽減をある程度軽減できますが、刺激量などの調整が非常に難しいために注意が必要です。

炎症を伴う場合は基本的に薬剤による疼痛コントロールに合わせて、負荷を利用しない運動(痛みの増強しな範囲)を合わせて行うことが大切です。

事故より1〜2ヶ月経過している慢性疼痛の場合は、筋肉の弛緩を図りながら運動量を増加していくのですが、深部筋の微細損傷持続による反射亢進や仕事復帰による疲労により全身にスパズムが発生していることが多いです。

このスパズムに対しては脊柱周囲の深部筋である遅筋を中心とした弛緩反応を促進させる運動が症状軽減に効果的です。四肢を利用しての終動負荷形態での運動を行うと筋疲労が出やすく、スパズムの亢進により痛みや痺れの増強がみられます。運動方法の選択を間違えないようにお願いします。

事故後の痛みは身体的な問題だけでなく、社会的要因(示談が進まない・本人は仕事中は痛いが会社の理解がなく休めない)などが重なりストレスによる痛みの増強なども関わります。

皆さんの努力としては、出来るだけ睡眠をしっかりとり、仕事(仕事の後は体が重く感じる)により疲れていると思いますが、よい運動(動いた後に体が軽く感じる)を継続していただきたいと思います。


痛み緩和教室
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