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変形性股関節症

疾患別の説明

股関節の痛み(歩く・立つ・座る・動く)

【疾患】

先天性股関節亜脱臼・Perthes病・大腿骨頭壊死・外傷など股関節の不適合をきたす疾患に続発した関節症を二次性変形性股関節症と言います。突発性に発症する一次性変形性股関節症は欧米人に多く。日本人では圧倒的に二次性変形性股関節症が多く、先天性股関節脱臼に由来するものが多いようです。

症状としては、股関節から膝にかけての痛みがあり運動により痛みが増強します。初期の段階では普段の生活内での運動量よりも激しい運動を行った後などに痛みが増し、安静時には痛みはありません。

進行と共に日常生活で行う歩行などの運動中や運動後に感じる痛みが増してきます。歩行も休憩を入れないと痛みで歩行を続けることが困難になり、夜間などにも鈍い痛みを訴えるようになってきます。

股関節の可動域制限も進行し、股関節を曲げたり伸ばしたり出来る範囲が狭まるので、日常のいろんな動作が行い難くなりますし、靴・靴下・ズボンなどの着脱は特に影響を受けて時間を要するようになったり困難になります。

X線画像(レントゲン)では、股関節の関節裂隙(関節の隙間のことです)の狭小化が著名で、骨硬化像・骨嚢胞・骨棘などの形成が見られる。

保存療法か手術療法の何れかが選択されます。保存療法の場合はリハビリ(理学療法)が中心となり、杖・装具の使用による免荷や、体重コントロール(減量)、筋力増強訓練などが中心に展開され、痛みの軽減に対して消炎鎮痛剤や関節内副腎皮質ステロイドの注入なども症状に応じて実施されます。

手術療法では、関節破壊が初期の状態であれば臼蓋形成術、骨盤骨切り術、内反あるいは外反で関節適合性が改善されれば大腿骨骨切り術などが行われます。高齢であったり変形が重度の場合は人工関節置換術が行われます。人工関節置換術では手術後の股関節痛は劇的に改善しますが、人工関節の耐久性の問題などもあり約10年を目安に交換が必要という欠点もあります。

 

【評価と経過】

変形性股関節症は特に女性に多くみられます。30〜50歳代では腰痛・股関節などの違和感や長距離歩行後の痛みにより病院受診される方が多いようです。初期の症状では漠然と腰や股関節辺りが疲れやすいという感じで、痛みがあまりない人もいらっしゃいます。

既往歴として先天性股関節脱臼などの経験があるという人もいれば、先天性股関節脱臼は無いがこの原因の一つでもある臼蓋形成不全がX線画像で見られることは多いようです。股関節は骨盤の寛骨臼(凹面)に大腿骨骨頭(凸面)が入り込む形で股関節として形成されますが、臼蓋形成不全は寛骨臼(凹面)の凹みが浅くて骨の不十分な発達です。

この様に30〜50歳代の若い方では関節破壊は小さい状態の方が多いので保存療法で経過をみることが多いのですが、中には破壊が重度で痛みによるADL障害(歩行困難など)が激しい方は人工関節置換術の適応になることもあります。

30〜50歳代の方は、若い時はちょっとした股関節の違和感などがあったり、時々腰痛を強く感じていたという訴えが多くあります。年齢を重ねるにつれて、しだいに長く歩くと股関節が重だるく感じる、股関節の痛みが数日続く、腰が重く感じ痛いという感覚が増強してきます。痛み・違和感の持続時間、強さ、痛みを誘発させる運動量レベルの低下など確実に悪化傾向を示して進行していきます。

筋力・持久力の低下は痛み誘発の要因でもあり、運動や筋力増強訓練がリハビリでは中心に実施されます。将来を見据えた目標を立て、体力向上による長期間の身体機能の維持という目的でリハビリを行い、このためには運動が中心となり運動が最も重要な保存療法であると言えるでしょう。

60歳以上の変形性股関節症では、関節破壊が重度の方も多く人工関節置換術がより検討されます。この年代の保存療法も基本的には30〜50歳代の若い方と変わりませんが、痛みの強い状態の方が多いので、痛み軽減や歩行距離の維持などに努めるという目標が中心となります。

 

【症例】 

Aさん 女性 50歳代

歩行時・歩行後の右股関節痛により病院受診し理学療法開始となる。右股関節屈曲90°、伸展10°で股関節の可動域制限が見られます。仰向けになり膝を曲げた状態でお腹の方に膝を近づけていくと、股関節の前面に骨盤と大腿骨がぶつかっているような感覚が感じられ「締め付けられるような」痛みが生じます。この時にお尻側では突っ張るような「ピリッ」とするような痛みを感じるということです。

画像診断では手術の適応でもよいレベルということで、一旦手術の検討を説明されていますが、リハビリ目的での来院により保存療法で経過を見るということに決定しました。

Aさん:

「1年くらい前から右の股関節に痛みが出てきました。最初は仕事が忙しい時や旅行などで一日中歩くことが多い時などに痛みが出たり重だるく感じていました。最初は痛みも軽かったのですが、段々痛みが強くなってきて、歩ける距離も短くなってきています。車を運転した後に車から降りて歩き始める時、椅子から立って動き始める時など特に痛みがあり動かしづらい感じです。
私の家は農業をしているのですが、重たいものを持って歩けないので仕事も出来ないことが多く困っています。農業は地面にしゃがみ込んで行う仕事も多いので今は四つ這いになって出来る分の作業をしていますが、四つ這いも大変で長くは出来ません。」

岸川:

「どのくらい続けて歩くと痛みが増しますか?段差などはどんな感じですか?夜間の痛みはありますか?車の運転は問題ないですか?」

Aさん:

「最近は15分ほど続けて歩くと痛みが増してきます。休憩すると楽になります。階段の昇り降りは痛みが増します。車の運転は大丈夫ですが、車に乗る時は右の足を両手で抱えて上げないと上がらないですね。長く歩いて痛みが出る時などは特に夜間にうずくことがありますね。痛みが出るようになってから右足は力が入らないというか踏ん張りきれないので、畑や田んぼは地面が段差だらけで気をつけて歩かないと転びそうですね。畑仕事の後は痛みが出やすいですし疲れやすくなりましたね」

岸川:

「Aさんの生活において今は歩ける時間が短く、重いものを持て歩けないことが問題ですね?痛みが軽減して楽に歩ける・動けるというのが目標だということですね?」

Aさん:

「はい、そうなるといいのですが。他の病院にも行き注射やリハビリもしてもらいましたが、痛みは徐々に強くなり歩けなくなってきています。手術はなるべく行いたくはないのですが、このまま動けないようでしたら手術を考えようと思っています。こちらのリハビリの評判を聞いて来ました、よろしくお願いします。」

岸川:

「ありがとうございます。そう言っていただけるのは嬉しいですね。こちらこそよろしくお願いします。Aさんの右股関節の関節変形などは理学療法では改善できません。また、私がAさんの症状を治すことも出来ません。これは紛れも無い事実です。Aさんのリハビリを継続していく努力が一番重要な治療ですよ。
Aさんのご希望である「痛みが軽減する、楽に歩けるようになる」という目標は、Aさん自身の努力と私の技術的なサポートがあって初めて結果としてあらわれて来ると思います。この二つが大前提として必要です。
もちろん右股関節周囲の筋や靭帯などは硬化していますし、股関節周囲の筋は可能な範囲で筋弛緩を進めて行きますが、これに伴い筋硬化部を弛緩させる時は痛みも伴いますし初期の頃は特に運動による軽い筋肉痛も出ます。リハビリが進めば運動量も増加されますのでリハビリ自体でも疲れます。
リハビリは楽な気持ちいいものでは決してありません。よろしいですか?
Aさんの持っている力が発揮できていない状況ですので、これを引き出していくことが目標でもあります。変形性股関節症のリハビリでは特別な技術や薬が重要でもありません。基本的なことを挫折せずに継続していく本人の強い気持ちが一番大切です。」

Aさん:

「はい、なるべく手術はしたくないので、がんばってみようと思います。」

※ 非常勤で週2回の勤務地でしたので私以外には理学療法士はいませんでした。このため、他の患者様の予約もありAさんへの理学療法は週1回(週1回の予約)の実施で継続しました。

Aさんは右股関節の可動域制限があります。股関節の構造上の問題(股関節の変形)と関節周囲筋の筋短縮状態からすると明らかな可動域の改善(10°以上)は不可能と予測されます。この点をAさんには正確に説明し、今後何を目標にしていくかを具体的に検討しました。

岸川: 

「股関節の状態から考えると、リハビリでは関節の曲げ伸ばしが出来る範囲は著しい改善は不可能です。リハビリを継続することで右股関節周囲筋の状態が変化してくれば10°以内程度の改善は見込める可能性はあります。
痛みを軽減させて楽に歩くことを目標にするというお話を先ほどしましたが、これは可能だと思います。Aさんの身体状況から考えると関節の可動域は改善されなくとも、痛みは軽減できますし歩ける距離も伸びてきます。
現在の右股関節の動かせる範囲をもっと楽に滑らかに動かせるようになることが今後のトレーニングの基本になります。可動域を広げることは目的ではありませんリハビリを行っていって結果的に改善してきたら儲けたかな?くらいに考えてください」

Aさん:

「前の病院では股関節の筋肉を鍛えなさいと指導されました。重りを使った運動や、 トレーニングの機械を使った運動や、ストレッチなどを行ってきましたが、痛みが減ったり、歩くのが楽になったことはありません。関節に負担がかかるから体重も減らすように言われました。」

岸川:

「そうですね、筋力を鍛えなさいというのは一般的に指導されますね。しかし股関節を中心に筋力増強しても痛みが増すことも多々ありますし、股関節の動きが悪くな ることも多いのですよ。仰向けになってお尻を上げたり、足を上げたり、腹筋した りと体操を指導されることも多いのですが、それを何十回繰り返しても改善へ向け ての主な訓練としての意味はありません。あくまでも補助手段であり、体操や腹筋 トレーニングのような動作(単関節の曲げ伸ばしを繰り返す運動)を使い一部分の 筋肉を鍛えようと考えて実施しても、よい結果に繋がらないことが多いようです。
周りの変形性股関節症の人を見渡すと分かると思いますが、股関節の筋肉を大き く鍛えようと考えて一生懸命トレーニングしている人で「以前より痛みが軽減し楽 に歩けるようになった」と言っている人はほとんどいないと思いますよ。患者さんにストレッチを何度も時間をかけて行いなさいと強要する理学療法士もいますが、変形性股関節症の方でストレッチを行って明らかに痛みが軽減したり可動域が改善される人を見たことありますか?私は見たことありません。
体重が重いから体重を減らして股関節の負担を減らさないといけない!とよく指導されますが体重が減って明らかに痛みが軽減した人は周りにいましたか? 私は見たことありません。
リハビリでは股関節の筋肉を太く鍛えなくてはいけないという、今までに指導された内容が正しいと思っていることをまずは修正することが大切です。 筋力を鍛える(筋肉が太くなる)ことが痛みを軽減させて楽に歩けるようになれる、そんなに単純ではありません。」

Aさん:

「本当ですか?体重を減らしたり、筋肉を大きくなるように鍛えないといけないと 思っていました。ストレッチも毎日お風呂から出て1時間くらい行っていまし た!確かに前の病院のリハビリの先生(理学療法士)に言われて続けていますが 痛みも歩ける距離も変わっていませんね」

このように変形性股関節症の患者さんによく見られる間違った認識を修正することから理学療法は開始しました。

Aさんの右股関節周囲筋の筋硬化が問題です。歩行時は体も軽く前傾して右股関節も伸展が少ない状況です。右股関節前面の筋肉が筋短縮を起こしており、右足を地面についてから左足を前に振り出す間(左足が振り出しにより浮いている状態)に右足のみで体重を支えなくてはいけません。この時に右股関節の痛みがあり体幹が前傾してしまいます。健康な方では足の振り出し時はほぼ体幹は真っ直ぐで、胸を張るような状態で歩いていると思います。

Aさんの場合は右股関節前面の筋の短縮があります。左足の振り出しでは体幹を真っ直ぐ伸ばさなくてはいけません。しかし、短縮した筋に力を入れた状態(筋肉が縮んだ状態)から体幹を真っ直ぐ伸ばすために、短縮した筋が引っ張られる状態を生じてしまいます。このために、歩行時に姿勢を真っ直ぐにして歩こうと意識し過ぎると、左足を振り出す時に「ピリッ」とするような瞬間的な痛みが出ます。これは荷重痛ではなく、短く(筋短縮)なっている筋肉が伸ばされるために生じる痛み(伸張痛)であることをAさんに理解していただきました。

この右股関節前面の筋短縮を安定的に軽減していくことは困難ですが、時間をかけて継続的に負荷をかけながら伸張刺激を加えていくことで安定的な変化が出てくる可能性はあります。杖を使った自宅での歩行練習を継続していただきたいのですが、Aさんは年齢からも杖は使用したくないということでしたので、リハビリ室の平行棒を利用した30分〜1時間程度の歩行訓練を継続していただきました。

平行棒では姿勢調整が行いやすく体幹が前傾しない姿勢での筋活動を促していきます、これは動作による右股関節周囲筋へのストレッチ作用があります。明らかに1〜2ヶ月で変化は見られないですが、半年〜1年単位での変化を目標にしていることを説明し、本人も理解し実施継続していただきました。

理学療法士としては股関節周囲筋への筋弛緩を図っていきますが、圧迫刺激を股関節周囲筋へ行っていきます。股関節周囲筋は筋硬化が強く深部にある筋は圧迫により強い痛みが誘発されます。この深部の筋肉を如何に安定的に弛緩した状態で閾値低下を改善し安定させるかがポイントです。

Aさんの右股関節の深部にある筋肉を圧迫し弛緩させますが、一回のリハビリで筋肉が一時的に弛緩しても初期の段階ではすぐに緊張が高まり、「痛みが軽減する、楽に歩ける」という体感は1〜2日の維持がやっとでした。もちろん筋硬化を起こしている部位へ刺激を入れるのですからAさん自身も私の徒手技術を受ける間は痛みを伴います。

2ヶ月ほどリハビリを継続していくと、深部の筋もある程度安定した弾力性がみられるようになり、リハビリ後の痛み・歩行が楽に行える状態が1週間ほど保てるようになってきました。

股関節周囲筋の弛緩に関しては理学療法士さんでも多くの誤解があるのですが、例えば股関節周囲をただマッサージしても安定的な弛緩効果は期待できませんし、深部の筋だから強く押せばいいという単純なものではありません。刺激量が多過ぎたり強すぎても痛みや緊張を高める失敗(慢性的な炎症状態を作る可能性もある)をしてしまいます。技術的なサポートを実施(リハビリ後)した直後の体感の変化(患者が痛みが軽減する楽に歩ける)は指標としては大切なのですが、あくまでも理学療法士がリハビリを実施しない日の痛みや動作の安定状況で評価・判断しなくてはいけません。

Aさんも右股関節周囲筋の閾値低下があり、この閾値低下が徐々に改善していくように必要な量と強さの刺激を加えていきました。

リハビリでは右股関節周囲筋の筋弛緩を図ることと、右股関節の動きを楽に行えるための力を引き出すことを初期の段階としては重要視していきます。この時期に筋肉を太くして筋力を鍛えるという認識は理学療法士にも患者自身にも必要はありません。

歩行を中心に、日常生活内のいろんな動作を行う時に楽に力が入れやすいという状況を引き出すことが重要です。これは運動を利用しないと引き出せない領域です。運動により筋肉を弛緩させるというイメージが重要です。

目安としては個別療法20分間の中で実施される運動後に、関節が動かしづらい変化・痛みが増す変化・足が重く感じる変化・歩きづらくなる変化などが出るような運動は好ましくないことが理解できるでしょうか?この様な結果をもたらす運動は、股関節の筋硬化を増強させる結果に繋がります。

運動方法は極端に言えば何でもよいのですが、患者さんは理学療法士とのリハビリ後(運動療法)に上記のような感覚になる運動を指導されている場合が多々あります。これでは股関節の可動域制限があり、股関節周囲筋をマッサージなどで弛緩させてもらって、その後に筋肉を硬くするような運動を実施させられていることになります。

この様な筋硬化を進めるトレーニングの運動指導時の大義名分は何でしょう?「股関節の筋肉を鍛えていくと筋肉が太くなり力がついて強くなるし、楽に歩けて痛みも減ってきますよ」ではないですか?

20分間の理学療法士によるリハビリで筋肉を弛緩させてから硬くする運動を実施することが果たして正しいのかは患者さん自身が冷静に判断してくださいね。

Aさんには運動後に体が楽に動かせる、楽に足が動かせるような体感が得られる運動を実施していきました、運動では筋肉だけでなく股関節周囲にある靭帯や関節包なども伸張される刺激量が増加します。この様な刺激量増加により関節を曲げ伸ばしする時の筋・靭帯・関節包の柔軟性を向上させていくことが可能です。これも出来れば動作を利用していくことが効果を示すことが多く、単関節を単順に曲げ伸ばしを繰り返す運動では逆に望ましくない結果に繋がることが多いようです。

この様にAさんの理学療法としては、右股関節の筋弛緩を図りながら徐々に運動量を増加していきました。

開始1ヶ月で夜間などに時々感じていた安静時の痛みは軽減し、クッションを膝の下に入れて睡眠を取られていたのですが、クッションは使用しないでよくなったとの話でした。歩行時痛は持続していますが、田んぼや畑を歩いても疲れや痛みの出方が楽になっているとのことです。

基本的な理学療法の内容は変化しませんが、右股関節症状の安定として初期目標が達成されてきたので、全身へのアプローチを開始してより日常動作の容易さを向上させるサポートを開始します。

2ヶ月後には車に乗る時は手で足を抱えなくてよくなり、歩行時痛も軽減してきました。歩行距離の増加も本人が確実に体感されています。この時期は全身の運動に合わせて右股関節を中心に持久力を強化する運動を少しずつ追加していきます。

この強化は目標としている楽な動作に繋がるために関連している運動を実施していき、動作を繰り返していくことで柔軟性を向上させながら結果的に持久力が強化されてくるという認識で望むことが良いようです。この運動でも運動後には楽に体が動かせるという体感を得られる内容の運動でなければいけません。

4ヶ月を経過すると右股関節の痛みはかなり軽減し、農作業もだいぶ出来る範囲が増えたということでした。長距離歩行では疲労などにより翌日の痛みが増すことがまだあり、足の突っ張り感などで筋緊張の増加する部位も自身がしっかり認識されており、疲労による痛み増強と普段の股関節痛を冷静な視点で判断できるようになられました。この頃になると理学療法を実施すると約1週間程度の活動(歩行を中心に)の容易さと痛み軽減が安定的に維持できるようになりました。

約6ヶ月後には歩行距離・スピード共に改善してきました。股関節周囲筋の硬化改善による柔軟性・弾力性の効果もほぼ安定傾向にあり、今後はリハビリを継続して運動量の増加を中心に目標を設定し、運動にかける時間をさらに増加していくことで話し合いました。この時期では理学療法の実施は約2週間の安定が図れるようになってきていました。

Aさんには初期の段階より平行棒内での歩行訓練と筋弛緩と合わせて運動を実施してきましたが、Aさん自身の努力があったからこそ現在の状況まで来ることが出来たと思います。関節可動域が明らかに改善もされていませんし、筋肉が太くなってもいませんし筋力が明らかに強くなったわけでもありません。しかし、理学療法を通して身体機能や痛み軽減が可能になる方も多いのです。

8ヶ月後にはAさんは一泊二日の旅行に行かれました。これは調子が良くなったら痛みが出る以前のように「また旅行に行こう!」というリハビリ目標でもありました。旅行では普段以上に歩行したり、長時間車に乗る(長時間の座位)ことが多く、疲労し痛みも出たのですが無事旅行できたという笑顔での報告をしてくれました。

Aさんは右変形性股関節症による股関節破壊の影響もあり、股関節周囲の筋肉は硬化しやすく、仕事や長距離歩行などで疲労が出ると筋肉が緊張し硬くなりやすい事実を理解していただきました。今後は手術をしないで様子を見ることを選択されたので定期的に理学療法による体の調整が必要だと伝えました。1回の理学療法後は現在2〜3週間の安定が図れているので、これを少しでも伸ばす方向と最低でも維持するための体作りとしてのAさん自身による取り組みには終了はないことを伝えました。

Aさんも楽に歩けるための取り組みは続けていく大切さを理解され、継続していきたいということでした。

 

【慢性痛対策】

変形性股関節症で保存療法にて経過されている人は、理学療法を実施するにあたり痛み軽減や楽な動作の向上などが目標になってくると考えられます。患者さんによくある傾向ですが、2〜3ヶ月ほどリハビリを実施して結果が出ないと効果が無いと判断し挫折してしまう人が多いようです。また、股関節周囲筋の筋弛緩には閾値低下の改善は必要であり、弛緩を図るためのマッサージや運動では必要な痛みや疲労も伴います。

リハビリとしての一時的な疲労や痛みの増強に対して、何かの技術や薬で治してもらおうという考えを変えきれない患者さんは依存的になり、よい結果に繋がりにくいのも事実です。半年〜1年という期間の努力が必要と踏まえて長期間のリハビリを継続していただきたいと考えます。

運動では仰向けになり腹筋やお尻を床から上げる運動、股関節を曲げ伸ばしする運動などが指導されることが一般的な理学療法では多いのですが、これは補助手段であり症状改善に向けての主な対策ではありません。また、筋力を鍛えるということで筋肉を太くするための重りやトレーニング機械を行うだけのリハビリも意味がありません。

単純にトレーニング機械で私たちがトレーニングをしても速く走れないのと一緒です。体の動きは協調性が重要なのですから。単純に筋力だけで改善を考える方が不自然なのです。

患者さん自身が自宅で動ける範囲を積極的に動いていく、歩ける範囲の歩行練習を繰り返すというような、日常生活内での患者さん自身の取り組みが最も大切なリハビリと言えるでしょう。

関節に負担になるから「歩かないでください」と言い上記の運動を実施するようにと間違った指導をしている理学療法士もいます。これは理学療法士の勉強不足としか言いようが無く、担当を変えることをお勧めします。上記のように歩くことを抑制されストレッチや体操を繰り返し行った結果、症状が改善し楽に歩けるようになった人を私は見たことがありません。

関節破壊が現在も明らかに進んでいる状態、炎症による強い痛みが見られる。この様な明らかに運動を抑制する必要がある場合はともかく、基本的に日常生活における運動量を低下することは望ましくありません。

もう一度皆さん自身が実地しているリハビリ内容を検討し、長期間に渡り痛みを軽減する・楽に歩くために必要な運動などを考え直していくことは重要だと思います。

また、変形性股関節症では痛みが完全に改善することはありません。一時的に日常生活で痛みを感じない期間があっても、年齢が進むにつれて痛みは再度感じるようになる時期は来ます。体の調整や自主トレを継続している人では痛みが出てくる期間を先に延ばせる可能性は十分にあります。若い患者さんでは、あくまでの痛みが軽減したり、ほとんど生活に支障が無い状態になっても完治しているという認識を持たないことが重要です。関節構造自体は改善していないのですから。だから日々の取り組みによる体調管理が重要になってくるのです。

手術への恐怖から保存療法を希望される方も大勢いらっしゃいます。しかし、変形性股関節症では手術により劇的な改善を示すことは多々あり、無闇に手術を怖がり保存療法で経過して日々痛みに悩んでいる方も多いのです。人生は一度ですのでどういう時間を過ごしていくかをじっくり考えて最終的な選択をされることを切に願います。

担当の医師と手術の検討をされる場合は、手術の方法、手術後は痛みや歩き方がどうなるかの予測をしっかり聞いてください。また、同じような症状で手術した人がその病院にいる場合は、その方の手術後のリハビリの様子(どの程度歩いたり動けているか)などを見学させてもらうとよいでしょう。無用な過大な手術への恐怖は、患者さん自身の生活の質(QOL)を低下させてしまう結果にも繋がります。

変形性股関節症だけではありませんが、患者自身がしっかり勉強し、情報を集めて、手術療法か保存療法でいくかを自己責任で後悔しないように選択していただければと思います。


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